解決事例・コラム
2025/05/23

建設業経営者必読!2025年6月施行の熱中症対策義務化にどう対応すべきか弁護士が解説

 夏季の猛暑が深刻化する中、建設現場における熱中症リスクは増大しています。これを受け、2025年6月より熱中症対策に関する新たな規制が施行され、事業者には具体的な対応とより重い責任が課されることとなりました。
 そこで本記事では、建設業経営者がこの法改正に対してどのように対応すべきか解説します。

1 増える建設現場での熱中症、経営者の責任が問われる時代へ

 建設現場は高温多湿な環境下での作業が多く、熱中症発生リスクが高い職場といえます。事業者は、労働契約法に基づき安全配慮義務(労働契約法第5条)を負っており、労働者の安全と健康を確保しなければなりません。これは「事業者は、…快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するよう努めなければならない」(労働安全衛生法第3条第1項)という規定にも通じます。
 熱中症対策を怠り労働災害が発生すれば、安全配慮義務違反として損害賠償責任を問われるおそれがあるほか、罰則が科されるおそれもあるため、事業者は十分に注意する必要があります。

2 なぜ今、熱中症対策が“義務化”されるのか、改正の内容とは?

 2025年6月施行予定の改正労働安全衛生規則(以下、「改正規則」といいます。)は、熱中症による労働災害防止のため、事業者が負う具体的措置義務を定めました。
 義務化の背景には、地球温暖化による猛暑の常態化、熱中症による労働災害の深刻化、そして従来の指導だけでは対策が不十分だったという点が挙げられます。熱中症対策を義務化するとともに、これに違反した場合の罰則を定めることにより、実効性を高めるのが改正規則の狙いです。
 具体的には、改正規則により、以下の措置をとることが事業者に義務付けられます。

・熱中症患者について報告体制の整備・周知
 熱中症を生ずるおそれのある作業を行う際に(※)、
 ①「熱中症の自覚症状がある作業者」
 ②「熱中症のおそれがある作業者を見つけた者」
がその旨を報告するための体制(連絡先や担当者)を事業場ごとにあらかじめ定め、関係作業者に対して周知すること

・熱中症悪化防止措置について実施手順の作成・周知
 熱中症を生ずるおそれのある作業を行う際に(※)、
 ①作業からの離脱
 ②身体の冷却
 ③必要に応じて医師の診察又は処置を受けさせること
 ④事業場における緊急連絡網、緊急搬送先の連絡先及び所在地等
など、熱中症の症状の悪化を防止するために必要な措置に関する内容や実施手順を事業場ごとにあらかじめ定め関係作業者に対して周知すること

「熱中症を生ずるおそれのある作業」とは、WBGT28度又は気温31度以上の作業場において行われる作業で、継続して1時間以上又は1日当たり4時間を超えて行われることが見込まれるものを指します。
 WBGTとは、人体の熱バランスに影響の大きい気温・湿度・輻射熱(日射しを浴びたときに受ける熱や、地面、建物、人体などから出ている熱のこと)という3つの要素を取り入れた温度の指標です。熱中症の危険度を判断する指標として用いられ、「暑さ指数」とも呼ばれています。

 上記義務に違反した者(個人)には、6月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金が科される可能性があり、事業者(法人)に対しても50万円以下の罰金が科される可能性があります。経営者はこの法改正を正確に理解し、早急に準備を進める必要があるといえるでしょう。
 厚生労働省も、以下の通り注意喚起を行っていますので、ぜひご参照ください。
 https://www.mhlw.go.jp/content/001476821.pdf

3 経営者がとるべき5つの実務対応

 では、法改正に対応し、作業員の安全を確保するために、経営者としてはどのような対応をとればよいのでしょうか。以下、実務対応の具体例をご紹介します。

⑴ WBGT値の正確な把握と作業管理の徹底

 WBGT測定器を設置・記録し、基準値に基づき作業中止や休憩導入等の社内ルールを策定・周知します。また、作業計画時からWBGT値の上昇を予測し、作業時間帯の調整を図るということも考えられます。

⑵ 効果的な休憩場所の確保と整備

 作業場所近辺に冷房設備付き休憩施設や日よけテント等を設置し、体温を効果的に下げられる環境を提供します。

⑶ 水分・塩分補給の徹底と管理

 作業員が自由に水分・塩分を補給できるよう環境を整備し、定期的な摂取を指導します。摂取量やタイミングの指導も有効です。

⑷ 作業員の健康管理と労働衛生教育の強化

 作業開始前に体調確認を行い、不良者には作業変更等を指示します。熱中症の症状、予防、応急処置等に関する安全衛生教育(労働安全衛生法第59条第1項)を定期的に実施し、意識向上を図ります。特に持病のある作業員には個別の配慮が必要です。

⑸ 熱中症対策に関する社内規程の整備と運用

 対策を網羅した予防規程を作成し、就業規則等に明記します。責任者を定め、対策状況の確認・改善を行うPDCAサイクルを確立し、緊急連絡・救護体制も明確化しておくべきでしょう。

 これらの対策は、法令遵守だけでなく、労働者の安全と企業の持続的成長のための重要な投資です。

4 万一に備えた「法的対応」も経営者の責任

 万全の対策をとったとしても、熱中症発生を100%防ぐことは困難です。発生時には以下のような法的対応を迅速かつ適切に行う必要があります。

・ 労災保険の適切な手続
 業務に起因して発生した熱中症であれば、労働者災害補償保険法の対象となります。会社は誠実に労災申請をサポートする必要があります。

・ 民事上の損害賠償への備え
 安全配慮義務(労働契約法5条)に違反した場合には、損害賠償責任が生じます。適切な保険加入も検討しましょう。

・ 原因究明と再発防止策の徹底
 原因を調査し、具体的な再発防止策を策定・実行する義務があります(労働安全衛生法第28条の2第1項)。

・ 行政対応
 労働基準監督署の調査や指導には誠実に対応し、改善の必要がある場合には速やかに対処しましょう。

・ 弁護士への相談
 発生時の法的手続、交渉、再発防止策の策定において、労務問題に詳しい弁護士への早期相談が円滑な解決の鍵です。予防段階からの相談もリスク最小化に繋がります。

5 最後に

 熱中症対策は、労働者の生命と健康を守り、企業の信頼を維持し、生産性向上にも貢献する経営課題です。法改正を機に自社対策を見直し、万全の体制を構築してください。
 本記事の内容についてお悩みの方は、ぜひ一度弁護士にご相談ください。

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