解決事例・コラム
2025/05/27

建設請負工事の契約不適合と損害賠償責任 建設業経営者が知っておくべき法的対応

1.はじめに

 建設業界において、引き渡した建物や工事に不具合が見つかることは、残念ながら一定数発生します。
 本記事では、建設業経営者が知っておくべき契約不適合責任の基本知識から、法的リスク、実務対応、予防策、そして万が一トラブルが発生した場合の具体的な対応と注意点について解説します。

2. 建設請負契約と契約不適合責任の基本知識

⑴ 建設請負契約とは

 建設請負契約とは、建設業者が発注者に対し、建物の完成や工事の実施を約束し、発注者がその仕事の結果に対して報酬を支払うことを内容とする契約です(民法632条)。この契約に基づき、建設業者は契約内容に適合した目的物を引き渡す義務を負います。

⑵ 契約不適合責任とは

 契約不適合責任とは、引き渡された目的物が、種類、品質または数量に関して契約の内容に適合しない場合に、売主(建設請負契約の場合は請負人である建設業者)が買主(発注者)に対して負う責任のことです(民法562条以下)。
 契約不適合の有無は、目的物が契約内容に適合しているか否かが判断基準となります。つまり、契約書や設計図書、仕様書などに記載された内容と異なる場合や、当然に有すべき品質を欠いている場合に、契約不適合と判断される可能性があります

3. 契約不適合が認められた場合の法的リスク

 建設請負工事において契約不適合が認められた場合、建設業者は以下のような法的リスクを負うことになります。

⑴ 修補費用等の負担 

 発注者からの追完請求に基づき、不適合箇所の修補や代替物の提供にかかる費用を負担させられる可能性があります。

⑵ 代金減額

 追完が困難な場合や、発注者が追完を求めない場合、工事代金の一部が減額される可能性があります。

⑶ 損害賠償

 契約不適合によって発注者に損害(例:修補期間中の営業損失、仮住まい費用など)が生じた場合、その損害を賠償する責任を負う可能性があります。

⑷ 契約解除

 契約不適合の程度が著しく、契約の目的を達成できないと判断された場合、契約を解除される可能性があります。

4. 建設業者がとるべき実務対応と予防策

 契約不適合責任のリスクを最小限に抑えるためには、あらかじめの予防とトラブルが発生した場合にどうするかを決めておくのが重要です。

⑴ 事前の予防策

 契約不適合責任のリスクを抑えるためには、契約内容を明確にすることが重要です。
 具体的には、詳細な設計図書・仕様書を作成する、契約不適合責任の期間制限や免責事項など、契約書の内容を十分に確認し、必要に応じて弁護士に相談する、工事の途中で仕様変更が生じた場合は、必ず書面による変更契約を締結し、変更内容を明確にすることが重要です。

⑵ トラブルが発生した場合の実務対応

 契約不適合が疑われるトラブルが発生した場合には、迅速かつ誠実な対応が求められます。
 発注者からの指摘内容、現場の状況、修補の状況などを、写真や文書で詳細に記録し、関係者(従業員、下請業者など)からの聞き取り内容も記録することが重要です。
 また、事実確認や原因究明が不十分な段階で、安易に責任を認めたり、具体的な修補方法や賠償額を約束したりすることは避けるべきです。
 トラブルが深刻化する前、あるいは交渉が難航し始めた段階で、速やかに建設問題に詳しい弁護士に相談し、アドバイスを求めることが重要です。弁護士に依頼することで、法的な観点から適切な対応策を検討し、交渉を有利に進めたり、訴訟に備えたりすることができます。

5.まとめ

 建設請負工事における契約不適合責任は、建設業経営において避けて通れない重要な法的テーマです。
 契約内容を明確化してトラブルの発生を防止するとともに、万が一トラブルが発生した場合には、誠実かつ迅速な対応を心がけ、必要に応じて弁護士等の専門家の助けを借りながら、適切な解決を目指すことが肝要です。

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