1 はじめに
「誠実に仕事をしたにもかかわらず、約束の期日を過ぎても工事代金が支払われない…」建設・建築業界において、このような工事代金の未払い問題は、残念ながら多くの事業者が直面しうる深刻な問題です。
特に、中小企業や一人親方にとって、一件の未払いが資金繰りを著しく悪化させ、経営の根幹を揺るがしかねません。
しかし、代金を支払ってもらえないからといって、泣き寝入りする必要は全くありません。適切な手順を踏めば、正当な対価である工事代金を回収できる可能性は十分にあります。
本記事では、工事代金の未払いが発生する原因から、具体的な回収手順、そして将来のトラブルを防ぐための予防策までを、法律の専門家である弁護士が分かりやすく解説します。
2 工事代金の未払があった場合の対処法
⑴ 未払の理由を確認する
工事代金の未払には、発注者の資金繰りの悪化、工事内容に不満がある、追加工事の代金に争いがあるなど、様々なケースがあります。
まずは発注者に連絡をとり、未払いの理由を確認するようにしましょう。
未払に陥った理由が分かれば、督促をして、話し合いによる解決を試みましょう。
⑵ 内容証明郵便で督促する
電話やメールでの督促に応じない場合には、内容証明郵便を利用して書面で請求を行います。内容証明郵便は誰が、いつ、どのような文書を送ったかを郵便局が証明してくれるため、請求した・しないの争いを避けることが出来ます。
内容証明を弁護士に依頼して送ってもらうことも効果的です。
未払いが続けば訴訟などの法的措置を取らざるを得ないことや、訴訟になれば遅延損害金などを併せて請求することも記載した内容証明郵便を弁護士から送ることで、こちらが本気であることを相手に伝えることができます。
また、弁護士に窓口を一本化することで、大変な交渉を弁護士にお任せすることができます。
⑶ 訴訟提起
内容証明郵便で督促しても支払わない場合には、裁判を起こして支払いを求めることになります。
裁判に勝訴すれば未払の工事代金を強制執行によって回収することもできますが、裁判中に和解によって解決することも多いです。
和解をした場合には、早期に解決して任意の支払いを期待できるというメリットがあります。
⑷ 仮差押え
訴訟を提起してから判決を得ても、財産を隠されたりして回収できなくなる恐れもあります。その場合には、裁判の前に、不動産、銀行預金、工事代金債権などを仮に差し押さえることも考えられます。
仮差押えが出来れば、相手はその財産を処分できなくなります。
裁判で工事代金の支払いを命じる判決が出た際には差し押さえを行うことで財産を回収することができます。
仮差押えをしないと、裁判中に相手が預金を使い切ったり、不動産を売ってしまうなどして、勝訴しても支払いが得られないことがあるため注意してください。
3 トラブル防止の方策
未払い金の回収も重要ですが、それ以上に大切なのは、そもそも未払いトラブルを発生させないことです。以下の点を徹底し、リスクを最小限に抑え、トラブルが発生した際にも身を守れるようにしましょう。
⑴ コミュニケーションを密にする
工事の進捗状況を定期的に報告し、発注者との良好な関係を築くことで、認識の齟齬や不満の発生を防ぎます。
⑵ 契約書の作成と確認を徹底する
建設業法では、工事請負契約において書面での契約締結が義務付けられています。工事内容、請負代金の額、支払時期と方法、工期、遅延損害金などを明確に記載した契約書を必ず作成しましょう。特に、追加・変更工事が発生した際は、その都度、内容と金額を書面で確認し、合意書を取り交わすことが重要です。契約書等の作成は、弁護士に依頼することをお勧めします。
⑶ 記録を残す
打ち合わせの議事録、メールのやり取り、現場写真など、工事に関するあらゆる記録を整理・保管しておくことが、万一のトラブルの際に身を守るための重要な証拠となります。
4 おわりに
大切な事業と従業員の生活を守るためにも、工事代金の未払いという問題に直面した際は、決して一人で悩まず、私たち専門家にご相談ください。早期のご相談が、早期の解決へと繋がります。