解決事例・コラム
2025/06/17 2025/06/19

建設業法・公共工事適正化法の改正について弁護士が解説

1 初めに

 2024年6月14日、「建設業法及び公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律(以下「公共工事適正化促進法」といいます。」)の一部を改正する法律」が公布されました。建設業界が直面する「2024年問題」に代表される担い手不足や長時間労働といった喫緊の課題に対応し、業界の持続可能な発展を図るための重要な改正です。
 本記事では、法改正の主要なポイントに加えて、法改正に対応しなかった場合のリスクや弁護士に依頼することで得られるメリット等について解説していきます。

2 建設業法・公共工事適正化促進法改正のポイント

⑴ 担い手の確保と処遇改善:賃金水準の抜本的見直しへ

 今回の改正で最も注目されるのが、労働者の賃金水準を確保するための具体的な仕組みが導入された点です。

・「標準労務費」の導入

 これまで曖昧であった労務費を適正化・明確化するため、中央建設業審議会が「労務費の基準(標準労務費)」を作成・勧告することになりました。建設業者は、この基準に沿った労務費を確保する必要があります。
 「標準労務費」の導入は、労働者の経験や能力が適切に評価され、賃金に反映される社会を目指すための大きな一歩となるでしょう。

・不当な廉価契約の禁止(原価割れ契約の禁止)

 従来、注文者にのみ課されていた「不当に低い請負代金の契約締結の禁止」が、受注者(建設業者)にも適用されることになりました。これにより、建設業者が自らダンピング受注を行い、結果として下請業者へのしわ寄せや労働者の賃金低下を招いてしまうことを防ぎます。

⑵ 資材高騰の価格転嫁ルール化:労務費へのしわ寄せを防ぐ

 近年の急激な資材価格の高騰は、建設業者の経営を圧迫し、本来労働者に支払われるべき労務費が削られる一因となっていました。この問題に対処するため、契約上のルールが明確化されました。

・請負代金の変更方法の契約書記載を義務化

 建設工事の請負契約書に、資材価格の変動などがあった場合の「請負代金の変更方法」を具体的に記載することが義務付けられました。これにより、契約締結の段階で価格変動リスクに対する双方の認識を共有し、トラブルを未然に防ぎます。

・変更協議への誠実な対応義務

 資材高騰などを理由に建設業者から請負代金の変更協議の申し出があった場合、注文者は誠実に協議に応じることが努力義務として課されることになりました(⇔公共工事に関しては義務。これにより一方的な価格の据え置きなどを防ぎ、公正なパートナーシップの構築を促します。

⑶ 働き方改革と生産性向上:魅力ある労働環境の実現へ

 2024年4月から建設業にも適用された時間外労働の上限規制に対応し、生産性を向上させるための具体的な方策が盛り込まれました。

・工期ダンピング対策の強化

 「著しく短い工期」による契約締結の禁止が、注文者に加え建設業者にも適用されることになりました。これにより、無理な工期設定による長時間労働や休日の減少を防ぎ、労働者の健康と安全を守ります。

・技術者配置の合理化

 監理技術者や主任技術者の専任配置義務が合理化(緩和)されます。具体的には、ICTの活用などにより現場の遠隔管理が可能で、かつ一定の条件下(現場間の移動時間が2時間以内など)であれば、複数現場の兼任が認められるようになりました。これにより、深刻化する技術者不足に対応し、効率的な人材活用を可能にします。

・ICT活用による生産性向上と書類の簡素化

 国が現場管理におけるICT活用の指針を作成し、特定建設業者(≒多くの下請業者を使う建設工事)に対してはICT活用の努力義務が課されます。また、元請業者には下請業者へのICT活用支援が求められます。
 さらに、公共工事においては、ICTの活用によって施工体制が確認できる場合、施工体制台帳の発注者への提出を省略できるなど、書類作成の負担軽減も図られることとなりました。

2 法改正に対応しないと何が起こるのか? ~静かに忍び寄る経営リスク~

 「今までも何とかなってきた」という意識は、もはや通用しません。今回の法改正は、これまで以上に厳格な運用が想定されており、対応を怠った企業には以下のようなリスクが現実のものとなります。

⑴ 元請・下請いずれも行政指導や営業停止リスク

 今回の改正では、元請・下請を問わず、事業者に対する規制が強化されました。特に深刻なのが、監督行政庁(国土交通大臣や都道府県知事)による行政処分です。
 例えば、以下の行為は明らかな法令違反となります。

・「原価割れ」と知りながら契約を締結する(元請・下請双方に禁止)
・著しく短い工期での契約を締結する(元請・下請双方に禁止)
・資材高騰に伴う価格転嫁協議に誠実に応じようと努力しない

 違反が発覚すれば、まずは「行政指導」が行われ、それでも改善が見られない悪質なケースでは「営業停止処分」、さらには「建設業許可の取消し」といった極めて重い処分に至る可能性があります。営業停止になれば、その期間中の事業活動は一切できなくなり、企業の存続そのものが危ぶまれます。

⑵ 公共工事の入札資格停止

 上記の行政処分を受けた事実は、各公共工事発注機関に通知されます。これにより、国や地方自治体から「指名停止措置」を受けることになります。期間は事案の悪質性に応じて数週間から数ヶ月に及び、この間、公共工事の入札に参加することは一切できなくなります。公共工事を事業の柱としている企業にとっては、売上を直接失う、死活問題といえるでしょう。

⑶ 社内体制整備コストの増大(事後対応だと割高に)

 「問題が起きてから対応すれば良い」という考えは、結果的に高くつきます。例えば、労務費の内訳を明示した見積書のフォーマット整備や、価格転嫁に関する契約条項の見直しを怠ったままトラブルが発生すれば、場当たり的な対応に追われ、かえって時間も費用もかさみます。
 慌ててコンサルタントに高額な費用を払ったり、急なシステム改修を余儀なくされたりするよりも、計画的に社内体制を整備する方が、トータルコストを抑えることができます。

⑷ 労務トラブルや契約紛争の火種に

 労務費や価格転嫁に関するルールが明確化されたことで、下請業者や技能労働者の権利意識は今後ますます高まっていくと予想されます。「言われた通りの金額で契約したのだから問題ない」という理屈はもはや通用せず、適正な労務費が支払われていない、価格転嫁協議に真摯に応じてもらえないといった不満は、賃金請求訴訟や労働審判といった法的な紛争に発展するリスクを常に抱えています。

3 弁護士がサポートできること ~リスクを回避し、攻めの経営へ~

 これらのリスクに対し、建設業界に詳しい弁護士は、法律の専門家として多角的なサポートを提供できます。

⑴ 契約書の整備(法改正を踏まえた下請契約・注文書の見直し)

 改正法で義務化された、「請負代金の変更方法」についての記載を追加した契約書や、労務費の内訳明示に対応した下請契約書・注文書のひな形を作成・レビューします。個別の案件に応じたカスタマイズも行い、紛争を未然に防ぐ強固な契約基盤を構築します。

⑵ 内部コンプライアンス体制の構築支援

 法改正の内容を役員や従業員に周知するための研修会の企画・実施、社内規程の整備、コンプライアンスに関する相談窓口の設置などを支援します。これにより、担当者個人の知識に依存するのではなく、組織全体で法令を遵守する文化を醸成します。

⑶ 公共工事に関する指名停止リスク回避のアドバイス

 どのような行為が監督処分や指名停止に繋がりうるのか、過去の事例を基に具体的なアドバイスを行います。万が一、行政庁によるヒアリングや調査が入った場合の対応方針についても、専門的知見からサポートします。

4 弁護士に依頼することで得られる3つのメリット

 弁護士に依頼することは、単なる「守り」のコストではありません。企業の未来を創る「投資」です。

⑴ 最新法令に準拠した社内整備が可能になる

 法改正の趣旨や複雑な条文を正確に理解し、自社の実情に即した最適な体制を構築できます。これにより、気づかぬうちに法令違反を犯してしまう「うっかり違反」を防ぎます。

⑵ 行政処分・訴訟リスクの回避

 専門家による予防的な措置を講じることで、事業停止や金銭的損失といった最悪の事態を招くリスクを最小限に抑えることができます。これは、安定した経営基盤の維持に他なりません。

⑶ 他社との差別化(法令順守を重視する発注者に好印象)

 コンプライアンス体制が整備されていることは、企業の信頼性の証です。特に近年、発注者は取引先の法令遵守(コンプライアンス)を厳しく見ています。弁護士のサポートのもとでクリーンな経営を実践していることは、発注者に対する大きなアピールポイントとなり、受注機会の拡大にも繋がります。

5 おわりに

 改正建設業法への対応は、もはや避けては通れない経営課題です。リスクを正しく認識し、専門家である弁護士と共に早期に対策を講じることが、これからの建設業界で生き残り、成長を続けるための鍵となります。問題が顕在化する前に、ぜひ一度、建設業界に精通した弁護士にご相談ください。

© 弁護士法人法律事務所瀬合パートナーズ