コラム
2025/09/22

建物明け渡し請求

1 はじめに

 賃借人が家賃を滞納している場合や、賃貸借契約の期間が満了した場合など、「賃借人を退去させたい」と考える方は多くいらっしゃると思います。本記事では、どのような場合に建物明け渡し請求が認められるのか、建物明け渡し請求の流れについて詳しくご説明します。

2 建物明け渡し請求が認められるには?

(1) 賃貸借契約の解除事由がある場合

 賃貸借契約は、継続的な契約であり、賃貸人と賃借人の相互の信頼関係を基礎とするものと考えられています。そのため、賃貸借契約を解除するためには、賃貸人と賃借人との間の信頼関係が破壊する程度の事由が生じたことが必要になります。
 多くの場合、賃借人の以下の行為を理由として、賃貸借契約を解除することにより、建物明け渡し請求が行われます。

① 賃料不払いがあること

 賃借人は、賃貸借契約で定められた賃料を期間内に支払う義務があります。賃借人が、1カ月分の賃料を滞納した程度では、上記の信頼関係が破壊されたとはいえませんが、賃料の滞納の程度、過去の賃料滞納の有無、滞納の理由等の事情を考慮したうえで、信頼関係が破壊されたか否かを判断することになります。単に、賃借人が資金不足のために賃料を滞納し、他に特段の事情がない場合、3ヶ月分程度の賃料滞納があれば、信頼関係が破壊されているものと考えられています。

②用法遵守義務違反があること

 賃借人は、不動産の使用収益にあたって、契約上定められた用法に従って使用する義務があります(民法616条、594条1項)。
 具体的には、居住用建物において店舗を営業している場合、ペットが禁止されている建物でペットを飼育している場合、無断で内装工事を行っている場合等は、用法遵守義務違反にあたりえます。
 もっとも、賃貸借契約上、用法遵守義務違反を解除事由と定めている場合であっても、違反の程度や賃貸人に与える影響が軽微な場合には、上記のとおり、信頼関係が破壊されたとはいえないケースもあるため、解除事由に該当するは慎重に検討する必要があります。

(2) 賃貸借契約の終了事由がある場合

①期間満了・解約申し入れによる場合

 建物賃貸借契約の更新を拒絶し、期間満了により契約を終了するためには、「正当事由」(借地借家法28条)が必要となります。「正当事由」の有無は、賃貸人・賃借人の双方にどの程度自己使用の必要性があるかや、賃貸借に関する従前の経過、利用状況、建物の老朽化等の状況、立退料の支払いの有無等を考慮して判断されます。

②賃借人死亡、行方不明の場合

 賃借人が死亡した場合、賃貸借契約は当然に終了せず、賃借人の地位は相続人に承継されます。もっとも、相続人が、賃貸借契約の継続を希望しない場合には、賃料が発生しないよう、相続人との間で賃貸借契約を合意解除し、任意に建物明け渡しを求める交渉を行うことが合理的です。
 また、賃借人が行方不明である場合も、自力救済は認められておらず、法的手続による必要があります。この場合、賃料不払いを理由として建物明渡請求訴訟を行うことが考えられます。

3 建物明け渡し請求の流れ

 建物明け渡し請求は、以下の流れで行われます。訴訟、強制執行手続に至った場合、最終的な明け渡しまで相当な時間・費用を要するため、まずは、任意の明け渡しを求めることが通常です。

(1) 催告・解除通知

①債務不履行解除の場合

 賃料不払、用法遵守義務違反等を理由として賃貸借契約を解除する場合、賃借人に対してこれらの是正を求めて催告を行い、相当期間内にこれが履行されないときに初めて解除権が発生します(民法541条)。賃貸借契約上、催告を行うことなく解除できる条項(無催告解除特約)が定められている場合もありますが、同条項の有効性が争われることがあるため、念のため催告を行っておくことが望ましいです。催告書は、催告をした事実及び内容、時期等が、後々紛争となることを避けるため、内容証明郵便により送付することが通常です。
 催告から相当期間が経過し、解除権が発生した場合には、賃借人に対して、解除の意思表示をする必要があります(民法540条1項)。解除通知は、催告書に「相当期間経過後も是正されない場合には解除する」旨の記載をしておくことで、催告と解除通知をまとめて行うこともできます。

②期間満了・解約申入れによる終了

 賃貸借契約に期間の定めがある場合、期間満了後も賃借人が建物の使用を継続し、賃貸人が遅滞なく異議を述べなかった場合は、契約が更新されてしまいます(民法619条1項)。そのため、期間満了を理由として、賃貸借契約の終了を主張する場合、少なくとも期間満了の6か月前までに、更新を拒絶する内容の催告書を送付する必要があります(借地借家法26条1項)。

(2) 任意の明渡しの交渉

 賃貸借契約を解除した後は、賃借人に任意の明け渡しを求めて交渉することになります。賃借人に資力がなく、滞納賃料の回収が見込めない場合には、滞納賃料の支払を免除する等、賃貸人が多少譲歩することで明け渡しを求めるケースもあります。

(3) 仮処分の検討

 賃借人が他人に建物を占有させている場合や、賃借人が第三者へ建物を占有移転させるおそれがある場合、建物明渡訴訟を提起する前に、占有移転禁止の仮処分をしておく必要があります。

(4) 訴訟提起

 仮処分の必要がない場合には、速やかに建物明渡訴訟を提起することになります。賃料不払いの場合には、賃借人や保証人に対する滞納賃料の請求も加えることができます。被告(賃借人)が、第1回口頭弁論期日に欠席し、答弁書も提出しない場合には、原告(賃貸人)の請求を争わないものとして、裁判所は、直ちに弁論を終結して判決期日が指定されます。

(5) 強制執行

 賃借人が、判決確定後も任意に退去しない場合は、強制執行により、強制的に賃借人を建物から立ち退かせることができます。

4 弁護士に依頼するメリット

 建物明け渡し請求において、まずは催告・解除通知を行いますが、その場合、賃借人の債務不履行の有無や内容について、慎重に事実調査を行ったうえで、解除事由に該当するか(信頼関係の破壊の有無)を検討する必要があります。また、賃貸借契約を解除した後は、賃借人に対して任意の明渡しを求める必要がありますが、弁護士に依頼することで、交渉をスムーズに進め、賃貸人の負担を軽減することができます。
 任意の明け渡しが難しい場合には、訴訟提起、強制執行を行う必要がありますので、専門家である弁護士に依頼されることをお勧めします。
 賃借人の賃料不払い等により、建物明け渡しを求めたいとお考えの方は、まずは弁護士にご相談ください。

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