1 賃貸借契約における「賃料」の位置づけ
賃貸借契約とは、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによってその効力を生ずる契約です(民法601条)。そのため、賃貸借契約を締結する際には、賃料について合意をしなければ、そもそも契約自体が成立しないこととなります。
もっとも、賃貸借契約は長期に及ぶこともあり、その場合には当初合意した賃料が、時間が経過するにつれて不当に低廉であると評価されるというケースがしばしば見られます。
このような場合、賃貸人と賃借人間で賃料を適正な額にする旨の合意が出来れば、その合意した額を前提とした賃料に変更をすれば良いのですが、現実問題として賃料を上げることを拒む賃借人も少なくありません。
そこで、賃貸人がこのような場合に行う法的手続きとして、賃借人に対し賃料の増額を求める賃料増額請求があります。
以下、かかる請求について詳述します。
2 賃料増額請求の法的根拠
賃料増額請求は、租税その他の公課の変動、土地・建物の価格の上昇その他の経済的事情の変動、または近隣類似の土地・建物の賃料に比較して不相当となった場合に、改定を求める当事者の一方的意思表示により、従前の賃料額を将来に向かって客観的に相当な金額に改定する権利です(借地借家法11条1項、32条1項)。
同権利は、特約によって排除することができない強行法規であり、従前の賃料が不相当になったことを条件として発生する形成権です。賃貸人の意思表示が到達した日から即日、賃料増額の効果が生じます。
3 増額が認められる具体的事情
賃料増額請求の当否及び当該請求が認められた時に改定されることとなる「相当な金額」
の賃料は、賃料合意の際に基礎にした事情と、合意時以降の借地借家法11条1項・32条1項所定の経済的事情等諸般の事情を考慮して決定されます。当事者が現実に合意した賃料のうち、直近のものがある場合には、この合意を基にして、同賃料が合意された日以降の法所定の経済的事情の変動のほか、諸般の事情を総合的に考慮することになります(最高裁平成20年2月29日判決)。
そして、賃料増額の認められるために必要な事情としては、以下のものが考えられます。
① 固定資産税や都市計画税の増加
② 近傍類似の土地又は建物の賃貸相場の変動
③ 建物の修繕・リニューアルによる価値上昇等の土地建物の価値変動
④ 当事者間が賃料額決定の際に考慮した重要な要素
4 借主が賃料増額に同意しない場合の手続き
借主が、賃料の増額に同意しない場合には、3で記載しております事情を主張し、裁判所に賃料の増額を認めてもらう必要があります。
賃料増額請求については、いきなり訴訟を提起できるのではなく、まずは調停を行う必要があります(民事調停法24条の2第1項)。調停では、調停委員を交えて話し合いによる解決が図られます。このとき、不動産鑑定士による鑑定が実施され、専門的な意見を聞くことができる場合もあります。もっとも、調停はあくまで話し合いにより解決を図る手続きですので、合意に至らなければ調停は不成立となります。
そこで、このような場合には、訴訟を提起し、裁判所に賃料の増額を認めてもらうべく、3で記載しておりますような事情について、主張・立証をしていくことになります。
5 まとめ
既に述べたとおり、賃料増額請求は、土地・建物に対する公課の変動、経済的事情の変動、近隣類似の土地・建物の賃料との比較といった様々な要素から複合的に判断されます。
このように、賃料増額請求にあたっては、専門的知見を多く必要とするため、手続きを行う際には、法律の専門家である弁護士に相談することをお勧め致します。