コラム
2025/12/08

地代・家賃の不払い・滞納問題

1. 建設業における賃貸契約と滞納リスク

 建設業においては、資材置き場、事務所、倉庫、重機保管場所など、様々な用途で土地、建物を賃借することが考えられます。しかしながら、資金繰りの悪化や元請・下請間の代金支払いの遅延などを理由として、地代・家賃の支払いが滞るケースが多くあります。
 また、建設業者は、工事着手時から完成時までの工期において、土地、建物を賃借するケースが多いため、工事完成時まで土地、建物の明渡しに応じてもらえない等のトラブルが生じやすいといえます。
 以下では、建設業者が地代・家賃を支払わない場合に、賃貸人としてどのように対応すべきであるかを詳しくご説明していきます。

2. 地代・家賃滞納が経営に与える影響

 建設業者が地代・家賃を滞納した場合、まずは、未払いの地代・家賃を支払うよう催告し、それでも支払いがない場合、賃貸借契約を解除し、建物明渡し請求を行うことになります。
 賃貸借契約は、賃貸人と賃借人の相互の信頼関係を基礎とする継続的な契約であると考えられているため、建設業者が資金繰りの悪化を理由として地代・家賃を支払わない場合、賃貸借契約の解除事由としては、通常、1か月分の地代・家賃の滞納のみでは足りず、少なくとも3か月分の家賃滞納が必要であると考えられています。そのため、賃貸人にとっては、長期間にわたって地代・家賃を回収できないとのリスクがあります。
 また、賃貸借契約を解除した後も、建設業者が任意に退去しない場合、土地、建物明け渡し請求の訴訟提起を行う必要があります。特に建設業においては、工事完成前の段階において、任意の明渡しに応じないことが考えられるため、訴訟費用の負担、次の借主に賃貸する機会の喪失など、賃貸人の経営に多大な影響を及ぼすことが考えられます。

3. 滞納発生時に考えられる法的手段

 建設業者からの地代・家賃の支払いが滞った場合、賃貸人としては、以下の法的手段を採ることが考えられます。

(1) 催告及び解除通知
 地代・家賃の不払を理由として賃貸借契約を解除する場合、まずは、建設業者に対して、未払いの地代・家賃を支払うよう催告を行い、相当期間内に支払われない場合に、初めて解除権が発生します(民法541条)。賃貸借契約上、催告を行うことなく解除できる条項(無催告解除特約)が定められている場合もありますが、建設業者から同条項の有効性が争われる可能性があるため、念のため催告を行っておくことが望ましいです。催告書は、催告をした事実及び内容、時期等が、後々紛争となることを避けるため、内容証明郵便により送付することが通常です。
 催告から相当期間が経過し、解除権が発生した場合には、建設業者に対して、解除の意思表示をする必要があります(民法540条1項)。解除通知は、催告書に「相当期間経過後も是正されない場合には解除する」旨の記載をしておくことで、催告と解除通知をまとめて行うこともできます。
 (2) 任意の明渡し交渉
 賃貸借契約を解除した後は、建設業者に対して任意の明け渡しを求めて交渉することになります。建設業者に資力がなく、滞納家賃の回収が見込めない場合には、滞納家賃の支払を免除する等、多少譲歩することで明け渡しを求めるケースもあります。
建設業者との間で、明渡日について合意ができた場合には、即決和解(訴え提起前の和解手続)を利用することで、仮に明渡予定日に、建設業者からの明渡しが履行されない場合であっても、同和解調書に基づいて強制執行を行うことができます。
(3) 仮処分の検討
 建設業者が、下請業者に建物を占有移転させる可能性がある場合、建設業者に対して建物明渡しの訴訟提起を行い、判決を得たとしても、強制執行ができない可能性があるため、訴訟提起前に占有移転禁止の仮処分をしておく必要があります。
(4)訴訟提起
 地代・家賃の不払いの場合には、建設業者だけでなく、保証会社や連帯保証人に対する滞納家賃の請求も加えることができます。建設業者が、第1回口頭弁論期日に欠席し、答弁書も提出しない場合には、賃貸人の請求を争わないものとして、裁判所は、直ちに弁論を終結して判決期日が指定されます。
(5)強制執行
 建設業者が、判決確定後も任意に退去しない場合は、強制執行により、強制的に建設業者を土地、建物から立ち退かせることができます。

4. 滞納トラブルの予防策と契約上の注意点

 上記のとおり、建設業者が任意に立ち退かない場合には、強制執行までの一連の手続を行う必要があるため、建設業者が地代・家賃を滞納した場合に備えて、未然に滞納トラブルを予防することが重要です
そのため、建設業者との間で賃貸借契約を締結する際には、以下の点に注意する必要があります。

(1)無催告解除の条項化
 賃貸借契約書において、「●回以上滞納があった場合、催告することなく即時解除できる」等と明記しておくことで、解除通知を行うタイミングが明確になり、建設業者に地代・家賃の支払いを促すこともできます。
 もっとも、上記のとおり、無催告解除特約の有効性を争われる可能性があるため、実務上は、念のため催告しておくことが多いです。
(2)保証会社・連帯保証人の設定
 建設業者が、地代・家賃を支払わない場合に備えて、保証会社・連帯保証人を設定しておくことで、地代・家賃を確実に回収できるようにしておくことが重要です。個人の連帯保証人を付す場合、極度額(将来的債務に対して保証が及ぶ上限額)について、「連帯保証人の極度額は、月額賃料の12か月分とする。」等と定めておく必要があります(民法465条の2)。
(3)下請業者への無断転貸の禁止
 建設業者が下請業者に対して、土地、建物を占有移転させる可能性がある場合、上記のとおり、占有移転禁止の仮処分を行う必要があるため、賃貸借契約の締結時点において、建設業者が下請業者に、土地、建物を無断転貸することを禁止する条項を明記しておくことが望ましいです。

5. 地代・家賃の不払い滞納回収事例

 建物賃借人が3か月以上にわたり家賃を滞納し、賃貸人からの督促にも何ら応じなかった事案において、当事務所では、訴訟提起及び強制執行を念頭に、賃借人との間で交渉を始めました。
 交渉開始時点において、賃料滞納が長期に及んでいたため、賃借人だけでなく、連帯保証人に対しても未払い賃料を支払うよう交渉を繰り返したところ、滞納賃料全額について、連帯保証人から支払いを受けることができました。
 もっとも、賃借人本人は、任意に建物を明け渡さなかったため、早期に訴訟へと踏み切ったところ、賃借人との間の裁判上の和解により、建物明渡に応じさせることができました。上記事例は、滞納賃料全額を回収したうえで、判決及び強制執行まで進むことなく、裁判和解によりスムーズに建物明渡しを受けることができた事例となります。

6. 建設業の地代・家賃の不払い・滞納問題を弁護士に依頼するメリット

 建設業者が、地代・家賃を支払わない場合であっても、弁護士から、内容証明郵便により催告及び解除通知を行うことで、早期に地代・家賃が支払われるケースも多くあります。
 また、建設業者が地代・家賃を支払わない場合であっても、弁護士に依頼することによって、賃貸借契約の解除を迅速に行い、土地、建物明渡しの交渉、仮処分、訴訟提起、強制執行といった一連の手続きを円滑に行うことができます。

7. 建設業の地代・家賃の不払い・滞納問題は法律事務所瀬合パートナーズにご相談ください

 建設業者が、地代・家賃の支払いを滞納した場合、上記のとおり、賃貸人の経営に多大な影響を与えるリスクがあるため、早期に、賃貸借契約の解除、建物明渡請求を行う必要があります。
 当事務所では、不動産の明渡し請求を数多く取り扱っておりますので、賃借人との間の交渉から訴訟、強制執行までの手続きを迅速に行うことができます。また、顧問契約をご検討いただいた場合には、建設業者とのトラブルを未然に防げるよう、賃貸借契約の条項を確認し、改訂すべき点をご提案させていただきます。
 建設業者からの地代・家賃の滞納問題にお困りの方は、まずは法律事務所瀬合パートナーズにご相談ください。

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