コラム
2025/08/27

建設業でよくある労務トラブル

1. はじめに

 建設業は、社会インフラを支える重要な産業です。しかし現場では過酷な労働環境の中で、労働災害や賃金トラブル、ハラスメントなどの労務問題が多発しています。これらのトラブルは、企業の信用失墜や損害賠償リスクに直結するため、早期の対応と予防策が不可欠です。
 本記事では、建設業界における典型的な労務トラブルの実態と予防策、法的リスクについて弁護士の視点からわかりやすく解説します。

2. 建設業の現状

2.1 労働力人口の減少

 国土交通省によると、建設業就業者のうち55歳以上が約36%、29歳以下はわずか約11%にとどまっています(出典:国土交通省「建設業をとりまく現状と取組」2023年版)。若年層の入職者が少なく、ベテラン世代の引退が進む中で、慢性的な人手不足が深刻化しています。

2.2 労働環境の課題

 長時間労働、休日取得の困難さも問題です。国交省の調査では、建設業の年間労働時間は全産業平均よりも長く、労働災害の発生率も高い傾向があります。これらの要因が離職率の高さにも影響しています。

3. よくある労務トラブル

3.1 労災事故

 建設業では墜落・転落事故、重機との接触など、重大な労災が日常的に発生しています。特に高所作業や重量物の取り扱い時には安全管理が必須です。

3.2 残業代の未払い

 建設現場では、工程の遅れを取り戻すために長時間労働が常態化しやすく、結果として残業代の未払いが生じるケースがあります。労働基準法に違反した場合、労働者からの請求により未払賃金に加え、付加金や遅延損害金が科されるリスクもあります。

3.3 パワーハラスメント

 建設現場特有の縦社会や体育会系の気風の中で、パワハラが起きやすいと指摘されています。たとえば、「新人を怒鳴りつける」「不合理な雑用を押しつける」といった行為は、精神的苦痛や退職原因となり、企業が損害賠償責任を負うこともあります。

3.4 偽装一人親方と社会保険未加入問題

 形式上は個人事業主でも、実態は企業の指揮命令下で働いている場合、「偽装一人親方」とみなされ、労災保険未加入などの法的問題が生じます。違法な労働者供給と判断されれば、元請業者にも指導・監督責任が問われます。

4. 労務トラブルの予防策

4.1 労働時間管理の徹底

 労働基準法を遵守した労働時間の管理は基本です。タイムカードやアプリによる勤怠記録を正確に行い、法定労働時間を超えないようにする仕組みが必要です。

4.2 安全対策の強化

 現場での事故を防ぐためには、定期的な安全教育やOJTが欠かせません。また、作業手順書の整備や安全装備の着用徹底など、ルールを明文化し、組織全体で取り組むことが求められます。

4.3 労使関係の改善

 パワハラの予防や労働環境の改善には、職場内での双方向のコミュニケーションが不可欠です。定期的な面談や意見箱の設置など、労働者の声を拾う体制を整えることで、トラブルの早期発見につながります。

5. 法的リスクと対応

5.1 建設業特有の法的リスク

 労災事故による損害賠償や、下請契約の曖昧さに起因する責任問題など、建設業特有のリスクがあります。契約書の作成が不可欠です。

5.2 労働基準監督署との関係

 労働基準監督署からの是正勧告や立入調査は、違法な長時間労働や賃金未払いが疑われた場合に実施されます。監査に備えて日頃から書類を整備し、記録を保管しておくことが重要です。

6. まとめ

 建設業の労務トラブルは、企業経営に直結する重大なリスクです。労災事故、未払賃金、パワハラなど、現場で起こりがちな問題を未然に防ぐためには、法令順守と日常的な労務管理が必要不可欠です。
 企業としては「予防」と「早期対応」をキーワードに、安全かつ働きやすい職場環境を構築することが社会的責任でもあります。

7. お問い合わせ

 当事務所では、建設業における労務管理のサポートや、トラブル発生時の法的対応を行っています。
 労働問題でお困りの経営者様は、お気軽にご相談ください。

 

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